風格のある門をくぐり、玄関までたどり着くと玉砂利と飛び石のある旅館のようなエントランス。一枚板の上がり框の向こうにはゆったりとした廊下が配され、正面には那須与一をモチーフにした手彫りの彫刻が現れます。
　純和風の稲田邸には３つのコンセプトがあります。まず１つ目は、ご主人が生まれ育った家の面影を宿した日本家屋であること。祖父が建てたその家は、建築期間２～３年というこだわりの住まいだったそう。「幼いころは廊下や和室でかくれんぼした記憶があって」とご主人。最近では廊下を無駄と考え省略することが多いなか、「無駄こそ大事」と８帖の和室の周囲を12帖ほどの廊下が囲む間取りにしました。その佇まいはゆとりと風格を感じさせます。２つ目は、客人をもてなす空間作り。エントランスのしつらえはもとより、ゲストルームを完備しバスルームも２ヵ所に設計しています。とくに２階は半露天風呂のようになっており、家であることを忘れてしまいそうです。そしてコンセプトの３つ目は、職人の技術を投じて技術の継承とものづくり精神を尊重したいという想い。仕事柄ものづくりに関わるご主人は「いいものを作ろうと提案してくれることにＮＯはない」と断言し、同じベクトルで家づくりができた職人さんに敬意を払います。担当の谷本専務も「大工がやりたい仕事ができる稀有な存在でした。自社大工だからこそ叶えられた手間暇のかかる仕事ですが、大工も腕が鳴ったでしょうね」と語ってくれました。
　最上級の素材を使い、細部にまでこだわった稲田邸。住む人のことはもちろん、客人や作り手への想いもあいまって、訪れる人の記憶に刻まれる一棟になることでしょう。