近くに小川が流れ、畑や山の実りが新しい季節の訪れを告げてくれる環境は、子育てに最適の場所です。十河さんご夫妻が家づくりを考えはじめたとき、豊かな自然環境は譲れないポイントでした。そんなとき近所で築60年の平屋と運命の出会い。古い梁を生かした家に憧れていたこともあり、リノベーションという方向性は固まりつつありました。とはいえ、増築を繰り返していた物件。住めるかどうかわからない…。そんな想いが交錯していたとき訪れたある工務店で言われました。「潰して新しい家を建てたほうがいいですよ」。現実を突きつけられながらも諦めきれない想いが渦巻くなか、和住宅の構造見学会に参加しました。完成見学会と違い、構造見学会は家の骨組みをしっかりと確認できる貴重なチャンス。実際に構造を見てみると仕事の細やかさがわかったといいます。「社長の話を聞いていると、家づくりのコンセプトが私たちの価値観にも近い気がしました」とご主人。
　後日、十河さんはリノベーションの依頼を持ちかけます。そして現場確認。社長は無言で家の隅々を見てまわり、最後に〝やりましょう〞とひと言。「昔の家ほど造りがしっかりしているもの。自分たちが住む家ですから、自分たちのしたいようにすればいいんです」と力強い言葉もかけてくれたそう。当時を振り返る奥さまの目には光るものが見えました。
　施工は基礎からやりなおし、断熱材を入れることで性能面は新築と変わらないほどになりました。味わいを深めた梁を生かし、性能も加わった十河邸。伝統技法を知る職人たちの腕と情熱が、家を再生へと導いたのです。