完成は桜のころ。家の前のソメイヨシノが淡い花を咲かせ、Ｎ邸の完成に彩りを添えました。少し離れた道路から眺めると、大きめの石を張った擁壁の上にそびえる城のような風情さえ感じられます。
　最近の新築ではあまり見かけなくなった入母屋造りの家。日本建築の真骨頂ともいえる家にこだわったのが、Ｎ邸のご主人です。
　家の前に立つと、屋根の尾が空に向かって伸びていき、白木の鎧張りとしっくい壁が重厚な存在感を放っています。鎧張りとは、外壁の下部に板を重ね合わせるように張ったもの。家全体を引き締める効果があり、まさに鎧のようです。
　なかに入ると広々とした玄関が現れ、奥へと長く続く廊下はまるで旅館のような赴き。Ｎ邸はこの大きな廊下を境にして、右側を暮らしの拠点であるＬＤＫ、左側を座敷として設計しています。
　９寸の立派な大黒柱を横目に、雪見障子を開けると、ふすまで仕切られた二間続きの和室が広がっています。親戚が集まるときや法要などに備え、ゆったりとした和の空間を確保。閉めれば客間としても使うことができます。建具はすべて造作で、ふすまにもこだわりました。
　また、目に見えるところだけでなく、構造材にも丸太を使用し、頑強な家に仕上がりました。「とにかくＮさんの想いが細部にまで行き渡った家ですね。職人たちも“職人冥利につきる”と腕がなったことでしょう」と前川社長は語ります。
　流行に流されず、「本物の木の家」を作ることにこだわったＮさん。子や孫に受け継ぐことができる最高の宝物は、18ヵ月の時を経て、完成しました。