２つのボックスを重ね、スライドしたような断面構成。一体、中がどうなっているのか、好奇心がムクムクと湧いてくる。“シフトボックス”と名付けられたこの家のユニークな外観は、奇をてらったものではなく「この形になるべくして、なったもの」という旺建の守屋さん。「ここは第１種低層住居専用地区で建ぺい率50％、北側斜線制限もある難土地。それらの条件をクリアしつつ、Ｎさまご夫妻の希望を叶えた結果がこの形でした」。
　２つの箱が生み出したのは、空間をずらすという発想のスキップフロア。リズミカルな生活動線に加え、ずらすことでできた隙間に収納や庭を確保し、見上げるほどの天井高も実現。その考え抜かれたオリジナリティに「最初の提案からすぐに気に入りました」と声をそろえるご夫妻。「デザイン面だけでなく、暮らす上でも便利な設計で、住み心地のよさや楽しさを実感しています」。
　厳しい条件を満たしながら、洗練されたデザインも兼ね備えたＮ邸。なかでも一番の見どころはリビングの中心にある“大階段”。この家をドラマチックに演出する幅２．７ｍの階段は、奥さまがスクラップブックにまとめた切り抜きの一枚からクローズアップされたものでした。やがてこの大階段から膨らんだイメージは、モダンなアクセントウォールや空中散歩のような渡り廊下、飛び石が印象的な和室など、豊かなニュアンスを感じさせる空間に発展。「暮らしを楽しみたい！」というご夫妻の気持ちがいたるところから伝わり、自然と明るい気持ちに。第一印象で受けたワクワク感。それはきっと、ふたりの充実した暮らしの輪郭がしっかりと表れていたからなのでしょう。